無 題

SR曹操×R曹操 




「何だありゃ?」
 練兵を終え汗を流すために井戸に向かっていた惇は、その光景を目にして何とも言えない表情を作った。

 中庭の木にもたれて眠る自軍の将と、その膝を枕代わりにしている覇王。
 戦後の殺伐とした空気がそこだけ抜け落ちたかのように、穏やかな光景。

 ……確か覇王軍は、先ごろ戦から戻ったばかりだと聞いたが。

 その様子がが何故か癪にさわり、思わず睨むような目で見てしまう。



 気配を察してか、眠っているかと思われた曹操が眼を開けた。

「なあ、あんたは孟徳をどうしたいんだ?」
 気まずい思いで視線を交わした後、唐突に、そんな言葉が口をついて出た。

 曹操が大陸を統べる覇王となる為には孟徳の存在が必要らしい。
 自分達がこの覇王軍に破れ、あげくの果てには目の前で孟徳を浚われるという失態をおかした事は記憶に遠くない。
 
 現在、自軍の武将たちは客将に近い立場で覇王軍の傘下に入っている。
 しかし孟徳はいつでも曹操の側に置かれ、惇から見ればまるで飼い殺しのような日々を送っていた。 

「……」
 答えの無い曹操に対し、先ほどよりも怒気を含んだ声で惇は同じ問いを繰り返た。

「どう、とは?」
 質問をされた側の曹操が、問いかけるような目で惇を見やる。
 
「認めたくねぇが、あんたの軍は今のままでも充分強い。
 武将として俺たちを使うのはいいとしても、孟徳の扱いが解せねぇ
 ソイツは俺達の将だ。それをこんな風に扱われて納得いくか!」

 少しでもおかしな事を言えば殺す。
 そう言わんばかりの空気を孕ませて、惇は槍の切っ先を曹操へ向ける。


「…これは我の一部。全てはわが意のまま」
 惇の行動に動じることなく、曹操は眠る孟徳の頬を撫で口角を上げる。

「きさまっ」
 挑戦的とも思える態度と台詞に、惇の殺気がふくれ上がった。

「ん…」
 ちょうどその時、それまで静かに眠っていた孟徳が軽く身じろぎし、曹操を抱える形になる。
 目覚めまでは至らなかったらしく、そのまままた寝息をたてはじめた。

 その様子に毒気を抜かれたのか、惇は槍を下ろして深いため息をついた。
 このまま感情に任せて槍を振るえば、孟徳まで傷つけかねない。


「お前は、どういう答えを望むのだ?」
 ばつの悪そうに頭を掻く惇に、曹操は静かにそう問いかけた。


「孟徳はなんだかんだ言って一度懐に入れたヤツにはとことん甘い。
 もし裏切るような事があれば、刺し違えてでもあんたを倒す」

 戦場で会えば誰もが逃げ出したくなるだろう目で曹操を睨み、鋭い殺気を放つ。
 しかしそれ以上行動は起こさずに、ふと肩の力を抜いて、踵を返した。



 結局、望む答えは得られなかったが、孟徳に害が無ければそれでいいのだ。
 この現状を孟徳が受け入れている限り、自分にはどうする事もできない。

 ただ、なんとなく。
 別世界に切り離されたような光景を見て、普段のイライラが爆発しただけで。



「我の片割れだ。悪いようにはせん   ……惇」

 ふいに呼ばれた名に、前に出した足が止まる。
 その呼び方は、孟徳と淵にしか許していないのに。

 その響きが、彼らが自分を呼ぶときにとても似ていて。


「その言葉、今は信用してやるよ」
 振り返らずに穏やかな声でそう返し、惇はその場を去っていった。




《了》 


都築京さまのサイトのキリ番(4444)を踏んだ記念に頂戴いたしました!!
何か言え、と言われてシソくれ、と言ったら書いてくれました。
しかも原稿やってる傍らで(笑)

素敵なお話ありがとうございました!


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