+ nowhere man +
それは、ハッピーエンドから一番遠い
愛のうた
「愛してる」 輪郭をなぞるように頬を撫でる。 白絹のような滑らかな感触。 今まで抱いた女の中にもこんな上等なのは居なかった。 だが目の前に居るのは男。 しかも、俺から見れば年端も行かない子供 らしくないと思いつつもこの子供に焦れた。 隻眼がじっと不思議そうに自分を見ている。 恥らうでも、嫌がるでもなく、されるがままに。 まるで何も感じない。と言わんばかりに。 経験には自信は有ったんだけどな。 何処をどう撫でれば感じるか。こう触れればイイ声で啼いてくれるか。 人によって違いは有るが、それでも啼かない奴はいなかったのが自慢だった。 ――――今までは。 頬を撫でていた手が首筋に達して、衿を引き広げてもそれを退けようともしない。 許してる?と思った事もあった。 それが違うと気付いたのは随分経ってからだったけれど。 「お前が欲しい」 そんな言葉に目の前の隻眼は笑む。 嬉しいからではない。 それは戦場で見せるのと同じ、どちらかと言えば不遜な笑い。 「何だ孫市。またか?」 呆れたような声。 いつもこうだ。 「いい加減、俺のものになれよ。政宗」 首筋を撫でていた手でゆるりと顎を捕らえて間近でその顔を覗き込む。 それでも見つめ返してくる視線の強さは変らない。 大きな琥珀の瞳が真っ直ぐに、自分を見つめている。 唇を攫おうとした時、漸く政宗は身を捩って顎を捕らえる手を逃れた。 「冗談は顔だけにしろ。わしが欲しくばあれに聞いてから来いと何度も言ってるだろう?」 『あれ』とは、政宗が片倉小十朗やらの近しい家臣以外に唯一全てを許した存在。 この小さな竜の本当の笑顔を知る存在。 「相変わらず…―――俺は真剣なんだけど?」 「わしも真剣だぞ?あれさえ許せば好きにすればいい」 またそう言って笑う。 挑発してるのか…誘ってるのか……全く 「許しが出なくて、勢い余ってあいつを殺したらどうするんだ?」 「その時はその時だ。――――まぁ、お前に奥州を敵に回す覚悟があるなら止めんが」 その言葉に思わず閉口してしまう。 俺も本気で言ってたから、余計その言葉が本気に聞えた気がした。 黙った俺を見て、政宗はふんと鼻を鳴らすと背を向けた。 「俺は本気で口説いてるんだぜ?」 「知っている。何度も言う通りあれさえわしに手を出してもいいと言えば出せばいい」 何度も同じ事を繰り返す。 そんなにあいつが好きなのか? ――――――まだ、忘れられないのか? 「なぁ、もういいだろう?」 「何がだ?」 「政宗!」 呼ぶと足を止めて『だから何だ?』と不機嫌そうに振り向く。 「誤魔化すなよ」 気付いてるくせに。 「あいつは……―――――幸村は、もう何処にもいない」 幸村―――― 真田幸村とは大阪の陣で散った豊臣の武将。 満身創痍で単身、徳川の陣に斬り込んで果てた真田の勇将。 そして、この目の前の竜を愛しんだ存在。 政宗を――――今も捉え続ける唯一の存在。 変わる事のない強さで隻眼が見つめてくる。 ざぁっと風が吹き抜け、政宗の鳶色の髪を浚う。 ふと、政宗がまた笑った。 「――――知っている。だから……」 先ほどとは違う――――綻ぶような笑顔 酷く、幸せそうな笑顔。 「だから、聞いてこいと言ったのだ」 止めてしまった心 何も感じない躯と変らぬ身体。 温もりさえ忘れるほど政宗を縛るのは狂おしいまでの―――恋情 聞けるはずのない言葉。ここに居ない人間に許しを乞えるはずも無く。 それは――――――無言の拒絶。 ――――全く…敵わないな 「まったく…ホント妬けるな」 溜め息混じりに吐きたした言葉に政宗はふんと笑う。 「ならばいい加減、諦めたらどうだ?」 諦める? 冗談じゃないね。 「生憎と、障害の大きな恋愛の方が燃えるタチなんでね」 「…物好きだな」 ホント、自分でもそう思うよ だが――――――負けたくないんだよな。 「お前の笑顔を見たいのはあいつだけじゃないって事さ」 一瞬。目を見開いたが、呆れたように溜め息を吐いて 「ったく……好きにしろ」 「ああ、好きにするさ」 また生意気な笑みを浮かべると背を向けて歩き出した。 こりゃ長期戦は必至だな……でも 呟いて深呼吸をひとつ 「絶対に、負けないさ」 空に語りかけて 向こうで呼ぶ声の後を追った。 了 |
初のサナダテ小説がコレ…暗いですな!
でも、孫市が一番絡ませやすかった…ゴフッ
マゴダテファンに喧嘩売ってしまった感じです;申し訳ない。
イメージソングはT/h/e/ K/a/l/e/i/d/o/s/c/o/p/e/の曲なんですが、
タイトルで分かる人いるかもしれませんね^^;
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