+眠れ。愛しき竜の腕の中+
降り頻る雨。 立ち尽くす自分。 足元には死屍が累々と転がり、凄惨たる光景だった。 別に珍しくもない。 戦となれば当然の事だから。 寧ろ、自分がここにいるという事が不思議だった。 あの時、大阪城に攻め入った自分は北門であやつと対峙し、斬り結んだ。 そして、敗れた。 斬られ、討ち死にした筈だった。 ――――鋭い突きが一閃、自分の胸を貫いたのを覚えている。 だが、その傷も痛みも今はない。 自分は何のために此処にいる? 今更、何の意味があるというのだろうか? 『……』 ふと、声がした。 雨の音に掻き消されてしまいそうだったが、その声は確かに自分を呼んだ。 聞き覚えのある声。 じわりと、消えた筈の傷が痛むような気がした。 その声に誘われたかのように足がそちらに向かう。 ――――行かなければならない。 意味がないと思っていた今の自分の存在意義をどこかが感じ始めていた。 辿り着いたのは大きな木の下。 そこに凭れかかるようにしている武士が一人。 傷だらけの身体を力無く地面に投げ出している。 こちらの気配は感じたか、僅かに瞼が開いた。 が、諦めた様にまた目を閉じた。 随分と傷だらけになったものだ。 意識が消える間際に見えたのは雨とは違う雫。 悲痛に叫ばれた名前にすら、答えてやることが出来なかった。 お前を恨んでなどいない。憎む理由が何処にある? それでもきっと、お前は恨んでいると思っているのだろうな。 花が散る様にいちいち心を痛めていてはきりがないのに… 散り落ちた花弁の一つと忘れてくれれば良いのに…… 「無様だな。真田の」 わざとそう呼んだ。 声に屍のような身体が僅かに反応して、再び薄く目を開けた。 きっとその目はもう見えていないだろう、この姿。 だが、口元が笑んだ。 気付いたか。 …………馬鹿め 「何を笑っておる…今際の際で気でも違ったか?」 自分でも相変わらずだと思う程、憎まれ口しか叩けない。 少しは眉を顰めるなり、嫌そうな顔をしてみれば良いだろうに 逆に、ふっと安心したように肩の力を抜いたのが分かる。 全く、どこまでも分からんやつだ。 そう思いつつも歩み寄って、凭れる隣に腰を降ろした。 ふと、目に留まった投げ出された手。 血と泥に汚れ、雨に打たれてすっかり冷えた手に己が手を重ねて握ってやる。 重なる手から伝わるのは―――僅かな温かさと、その心 未だに、捨てる事無く抱き続ける想い。 本当に、どうしようもない不器用な男だと思った。 「もう、いいのか?」 僅かに肩に寄りかかって顔を見ずに言った。 何気ないその言葉に含まれた真意 何故、自分がここに来たか……。 握られた手が動き、目を閉じたままの顔が頷いた。 ――――ああ、私は武士として、私の望むままに生きた。―――― 伝わってきた想いと言葉に笑みが漏れる。 武士として、望むままに生きた……か。 ならばいい。 お前がお前らしく生きたのならそれで、いい。 やっと戒めが解けたな。 お前も、わしも―――― 腕を伸ばしてその頭を抱き込むようにして抱きしめた。 雨に濡れた黒髪をそっと指で梳いてやる。 「ならば、もう休んでいいぞ」 腕の中で頷いたのが分かった。 ふと、呟いたのだろう言葉が届いた。 聞える筈のない言葉。 きっと聞かせるつもりもなかっただろう言葉。 もう一度、それを言ってくれるのを待っていたような気がする。 今なら、迷う事無く応えてやれる。 「馬鹿め……――――――言われずとも、ずっとお前の傍にいてやるわ」 それに満足したようにふっと笑って頷き、寄り掛かる身体を再び抱きしめた。 言葉は必要ないから今はただ眠ればいい。 この、小さき竜の腕の中で…… 了 |
何のかんの悩んで結局UPしちゃいますた^^;
あのまま幸村sideで止めようか悩んだんですが…
伊達君にもそれなりの言い分のようなものを
言わせてあげたかったので(汗)
毎回こんな芸風ですみません