「梵天〜〜!準備まだ出来ないの〜?」

「もう少し待てって」



玄関先で靴を履いている政宗に成実が「遅いぞー」と口を尖らせる。

「っと!よし、待たせたな」

靴を履き終えて玄関を出た政宗は成実の隣に立つ。





「道中くれぐれもお気を付け下さいね!?ちゃんと防犯ブザーは持ちましたか!?警察の連絡先はご存知ですか1?」
「持ったし知ってるって」
「相変わらず景綱は心配しすぎだってのー」

過保護とも言えるだろう次兄の心配性っぷりに二人は肩を竦める。




「じゃ、行ってきまーす!」
まだ茶の間で騒いでいる景綱を綱元が宥めている間に、二人はいそいそと家を出た。










+ + + + +











駅の方面に向いながら、二人は他愛のない会話をしながら歩みを進める。

間もなく初夏を迎える陽気は少々眩しかったが、そよぐ風がそれを打ち消してくれた。





「そう言えば、梵天をあの店に連れていくのは初めてかな?」
「ん?この前の店じゃないのか?」
「うん、偶然見つけたんだー。駅前の小さな店なんだけど、品揃えはいいもん揃っててさ」
「ほう?」

「下手な店より断然いいよ〜。梵天も彼女が出来たらこの店で選ぶといいよ」
「はいはい」





こういう話になると、政宗は途端に素っ気ない。
そんな様子に成実は「も〜真面目に言ってるのにー」と口を尖らせながらも笑う。


駅前通りにある商店街を抜けて、小さなアーケードの通りに入る。
そこから一本裏手の通りに入っていくと、目の前に小さな3階建てのビルが現れ、成実はその中へ入って行く。

静かなビルの中にある、コンクリートの階段を上り、ちょうど二階が店の入り口になっていた。




「あ、ここだここ。ちょっと小さい店だろ?」
「結構目立たない店だな…」
「だろ〜?でも結構頻繁に客は来るんだ。口コミってやつなのかな」
「へー…」


本当にこういう店を見つけるのが上手いとは思っていたが、今回は流石に感心した。
行き慣れた商店街の、しかも裏通りにある見落としそうなほどの小さな店。



「気に入ったら買えばいいじゃん」
「まぁ、善処しよう」


言いながら、成実は店の入り口の扉を押した。

すると、来客を知らせるために付けられた鳴り物が涼やかな音と共に二人の来客を店に知らせる。
成実の後ろから店内に入った政宗は、独特の雰囲気に慣れないのか少し困惑したが、店内にはアクセサリーや雑貨が
丁寧にレイアウトされていて、店のセンスの良さが伺えた。



何処を見るのかと思っていたら、成実は迷う事無く店の奥にあるカウンターに向かって行く。
カウンターには店員らしき若い男が1人座っており、アクセサリーの手入れをしているようだったが、カウンターに来た来客に
気づいて顔を上げた。



「ちゃーっす!」
「いらっしゃい。いいタイミングだ」




成実から少し遅れて政宗も側にやってきた。

が、成実と親しげに話しているその店員の顔を見るなり、驚いて思わず声をあげてしまった。







「――――あ!」









その声に気付いた二人が政宗に振り向くと、その店員も政宗の顔を見ると目を丸くして驚く。








「あ!…っと確か、伊達君だったっけ?」







政宗が驚いたのも無理はない。

その店員は、数日前に学校で助っ人を賭けて手合わせをした真田幸村だったのだ。





互いに驚いている二人の様子に、成実は訳が分からず二人を交互に見遣るばかりだ。

「何?梵天、知り合いだったの?」
成実の問い掛けに政宗はようやくはっとなって、慌てて成実の耳元に言葉を呟く。

「知り合いというか…例の…」
「あー!真田さん!!そっか、ここの真田さんだったんだー」

あの時の傲慢な態度を少々反省していた政宗は少々気まずそうに一歩引いて成実の後ろに下がる。



そんな最中、店の奥から髭を蓄えた壮年の男が一人顔を出した。



「あ、支倉店長ー」
「おや?成実君いらっしゃ〜い……って、そこの彼は真田君の知り合い?」
「知り合い…といえば知り合いですかね」
「これ、俺の兄貴なんですよ」


後ろに居た政宗を前に引っ張って紹介すると、政宗は「初めまして」と頭を下げる。


「へー成実君のお兄さんか。まぁ小さい店だけどゆっくりしていってね」
「はい。ありがとうございます」


優しい物腰の店長に、緊張しっぱなしだった政宗も肩の力を抜く事が出来た。



「ところで店長ー新作は―?」
「あ、あるよ〜そろそろ成実君が来ると思ってたから取って置いてるよ」


そう言って、店長は再び店の奥に姿を消した。



「梵天、俺こっちで見てるからその辺で見てろよ。真田さん、選ぶの上手いから見繕って貰えばいいじゃん」
「え。いや…別にわしは……」
「今は暇だから構わないよ。どんなものがいい?」

「あ…こ、ういうのに慣れてなくて、どれが良いか分からないので…」
「そっか。あ、敬語は止めていい。別に先輩後輩の関係じゃないんだから」

「いや、でも…」
「気にするな。その方が私も話しやすい」

そう言われては否とは言えず、政宗は小さく頷いた。
そんな政宗を促して、幸村は店内を案内する為にカウンターを離れる。











+ + + + + 











「あ…っと。先日は世話になった」
「こちらこそ楽しい手合わせだった。ありがとう」


必死に敬語を止めようとする姿に、幸村は不謹慎だと思いながらも内心笑う。


「もう一度会いたいって思ってたから、今日会えるとは思わなかった」
「その…手の怪我は大丈夫、か?」
「あぁ、もうすっかり完治してる。手加減してくれたおかげかもな」
「別に手加減なんかしてない」


以前ほどあからさまではないものの、不機嫌そうに眉をひそめる政宗に幸村は苦笑した。

「何が可笑しい?」
「いや…あ、これなんかどうだ?普段余りアクセサリーを付けない人向けなんだ」



そう言って、幸村は傍のガラスケースにあったシルバーチェーンのネックレスを取り出す。
政宗は首を傾げながらも幸村の行動をじっと見ていた。

「ほら、シンプルだろ?」
「っ!」


政宗の背後に回って、幸村は取り出したネックレスを政宗に着けてやる。
突然の事に政宗はただされるがままになっていた。

鏡の中に映る自分の首元に輝くネックレスを政宗はじっと見つめる。



「どうだ?」
「……確かに、派手じゃなくていい」

「うん、似合うな。色白いからシルバーの方が似合う」
「む……そういうのは女に言え」
「こういうのは、似合う人が付ければいいんだ」


そう言って幸村は政宗に付けていたネックレスの値札を手に取ると、そのまま外した。



「?」
「探したけど、これが一番似合うからプレゼント。先輩のメンツを守ってくれたお礼かな」
「い、いや!こんなに高い物は貰えん!それに、メンツとかそういうので引き受けた訳でもない」


慌てて幸村の手から値札を取り返そうとしたが、逆にその手を掴まれる。


「私が贈りたいんだ。アクセサリーは似合う人に贈られるのが一番幸せだし」
「…………っ」
「受け取ってくれるか?」


政宗は躊躇したが、少し考えてから漸く頷いた。
そんな政宗に、幸村も笑顔で頷くと目の前にある政宗の頭を撫でた。

「子供扱いするな」

笑んで頭を撫でられた事が、幼子をあやす様な仕草に思えたのか、政宗は僅かに首を振ってそれを退ける。
『そういうつもりじゃなかったんだが』と幸村は苦笑した。

本当に無意識の行動だったから、言い訳も特にするつもりはなかった。



そんな遣り取りをしていると、買い物を終えたらしい成実が二人の元へやってくる。
成実は政宗の首に掛けられたネックレスを目聡く見つけた。


「あれ、結局梵天も買ったの?」
「え、いや…これは…」
「私が買ってプレゼントしたんだ」
「へぇ〜?うん。似合ってるじゃん!」
「そ、うか?」

慣れない物を着けて褒められた事に政宗は惑っているのかただただぎこちない。

「やっぱ良い選びするじゃん」
「真田君はセンスいいからねぇ」
「褒めても何も出ませんよ」
「おや、それは残念」


態と肩を竦めて残念そうに言う店長。

そんな二人の遣り取りを見ていて、政宗は思わず笑ってしまった。



「おんや、梵天が笑った」
「む…悪いかっ」

隣にいた成実に指摘されて、政宗は慌てて顔を背ける。
その態度に今度は成実が笑って「いーや?」と言うが、政宗はふんと視線を逸らしたままだ。


「じゃ、そろそろ帰ろうか。梵天」
「そうだな。余り居ては他の客の邪魔にもなろう」


二人はさっき入ってきた出入り口の扉へと向かうと、見送りの為にと店長と幸村までもが付いてきてくれた。



「店長、また新作入ったら来るんで」
「待ってるよ〜」



「また、一人ででも遊びに来ればいい。ここなら学校からも近いし」
「……うむ」


それぞれと挨拶を交わして、二人は見送られながら店を後にした。






続。






また変な切り方してしまって申し訳ありません;
いい加減フラグが中途半端ですね;
そして、小十郎がただの過保護ぶっ壊れですいまs…orz
今回はそんな役回りですが、真面目なときは真面目(な、ハズ)

というわけで次回へ続きます;